日雇い派遣の原則禁止が意味することとは?…
2012年 10月 24日
30日以内の派遣ができる17.5業務と四つの場合
今日(2012年10月1日)から施行された改正労働者派遣法。派遣労働者の保護と雇用の安定を図るための改正とされるが、派遣で働く人たちの労働環境は具体的にどう変わるのか。社会保険労務士のI氏と、派遣で働くK代とM奈の会話を通して、解説していく。今回は、改正で30日以内の短期間の派遣に起こる変化について紹介していきます。
I氏:今回の改正で、派遣社員を活用している会社に最も影響が大きいのは「日雇い派遣」の原則禁止です。一日単位で契約する人だけでなく、30日以内の雇用契約で派遣会社に採用された人の派遣も禁止されます。こうしたあまりに短期間の雇用・就業では、派遣会社も派遣先も、雇用管理の責任を果たさないというのがその理由です。
K代:原則ということは例外があるんでしょうか。
I氏:日雇い派遣の弊害の恐れがない業務などは、30日以内の雇用契約での派遣も認められます。一般事務には3年という派遣期間の制限がありますが、制限がない業務もあるのはご存じですよね。
M奈:政令26業務とかいう仕事ですよね。私もそのうちの一つ、第5号の「事務用機器操作」に派遣されています。
I氏:その26業務のうち17.5業務については、30日以内の雇用契約での派遣もできます(表1)。事務用機器操作やファイリングもそれに含まれていますのでご安心ください。
K代:何ですか、その0.5業務という端数は?
年収500万円がハードル
I氏:実は、政令26業務の(12)には駐車場管理なども含まれているのですが、その部分は例外扱いにはならなかったのです。
K代:なるほど。ほかにも、日雇派遣が認められるケースはあるのでしょうか。
I氏:以下のような場合があります。(1)60歳以上、(2)雇用保険の対象にならない昼間の学生、(3)生業として500万円以上の収入がある人の副業の場合、(4)生計を一にする配偶者などの収入で主に生活費を賄っており、世帯収入が500万円以上ある場合――です。
M奈:じゃあ、彼氏と同棲すれば、(4)に当てはまって日雇派遣でも働けるんですね。
I氏:内縁関係でも構いませんが、世帯収入が本当に500万円以上になるか、そして彼氏の収入がその半分以上を占めるかを、所得証明書や源泉徴収票で確認しておいた方がいいですよ。例外に当たるかどうか、派遣会社はこうした書類で確認することになっていますから。同棲するのはその後でもいいんじゃないですか。
M奈:それは厳しいなあ。私の彼、契約社員だもんな。
I氏:今回の改正のそもそものきっかけは、日雇派遣の大手2社が、法律で禁止されている港湾での運送業務に労働者を派遣して業務停止命令を受けたことでした。だから、日雇派遣の原則禁止が法律に盛り込まれ、その例外も厳しく制限されたのです。
違法派遣=雇用申し込みは3年先
K代:その話は新聞に大きく出たので私も覚えています。でもそれって、派遣会社だけの責任なんですか。
I氏:そうとは言えませんね。だから今回の改正では、派遣禁止業務に派遣社員を従事させる、派遣可能期間を超えて派遣社員を受け入れるなど、分かっていながら違法派遣を受け入れた会社にも、「ペナルティ」が設けられました。派遣社員に、同じ労働条件での雇用を申し込んだとみなす――というものです。
K代:あら。私は一般事務なのに、もう3年近く同じ会社に派遣されていますよ。これは正社員になれるかも……。
I氏:ただ、この規定の適用は3年先、2015年10月1日からなのです。
K代:ずいぶん先のことなんですね……。
M奈:まあ、いいじゃない。「登録型」が禁止されなかったんだし。
I氏:“リーマンショック”で派遣切りが横行したことなどを受けて、民主党は、派遣会社と1年以上の契約のある「常用型」派遣のみにするとか、製造業への派遣を原則禁止に戻すといった内容を盛り込んだ派遣法改正案を、一昨年4月に国会に提出しました。
M奈:働き場所が少なくなるんじゃないかって、心配しました。
I氏:確かにそういう指摘もありましたね。結局昨年12月、参議院で多数を握る野党の協力を得るために、法案が修正され、登録型派遣と製造業への派遣の原則禁止はどちらも削除されました。
K代:この二つが実現していたら、つぶれる派遣会社が続出していたのじゃないですか。
M奈:1週間とか2週間とかの短期で働く派遣の人は結構いるから、日雇い派遣の原則禁止も派遣会社には打撃なんじゃない?
I氏:また聞きですけど、「3年先には労働契約申し込みみなし制度も施行されるし、もうここで廃業しようか」と考えている派遣会社もあるようですね。そういえば、この雑誌に……。(鞄の中から「日経BP社」と書かれた紙袋を取り出す)
K代:何が載っているんですか?
I氏:日本人材派遣協会の会長インタビューが掲載されています。目を通されてはいかがですか。じゃあ私はこれで。念のため、名刺を置いていきますから。
K代、M奈:長時間どうもありがとうございました!
M奈:帰りの新幹線の中で読んでみるわ。私たちもそろそろ二次会にいかなくちゃ。
K代:あっ。
M奈:どうしたの?
K代:あの先生、自分のコーヒー代を払わずに行った!!!
(source:日経2012.10.1)
取材・文/井上俊明(社労士ライター)
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